• 工藤耕太郎

怒っていらっしゃるご高齢の方

入院依頼の多くを占める事例は「BPSD」(認知症周辺症状)がコントロールできず、施設や家庭での介護が不可能というものです。BPSD(認知症周辺症状)とは認知症に伴って、以前より怒りっぽくなったり妄想をもったりするという概念です。

抗認知症薬や睡眠導入剤や抗精神病薬がすでに処方されていることが殆どです。薬の添付文書(製薬会社が発行している取扱説明書)を読めば、一定以上の確率で、抗認知症薬が易怒性を誘発することは明らかです。さらにその場合は抗認知症薬の漸減中止も添付文書では推奨されています。

病歴を確認すると、抗認知症薬を処方→易怒性の増加、夜間の不眠の出現→睡眠導入剤の処方→抗精神病薬の追加、という過程を辿っていることが殆どです。

易怒性の増加や夜間の不眠の出現を認めた時点で、抗認知症薬の漸減中止という常識的な方法を取っている医療機関は稀なのではと感じております。もちろん入院依頼の事例を見て感じていることなので、印象には偏りがあるかもしれません。

さて、そのような患者さんが入院された場合、まず薬物の漸減中止を行います。中枢神経作動薬(脳に効果を出す薬)は、突然中止せず、徐々に減らしていくことが基本です。このブログを読まれたご家族は、絶対に自分たちで中止を試みないでください。

全ての薬剤を中止したあと、患者さんを観察すると「なるほど、怒りだすことが結構あるな」ということに気付く場合があります。しかし、さらによくよく観察すると、単純にプライドを傷つけられて怒っているだけの場合が多いです。

認知症を発症したからといって、それまでの記憶が全て失われるわけではありません。過去の記憶やプライドは残っている状態が多いです。そのような患者さんを子供扱いすれば激怒するのは当たり前のことです。高齢になれば、周囲の出来事に気付く能力が低下します。そのような方に声をかけながらでも、後ろから急に近づいて処置などすれば、驚きのあまり防衛行動としての暴力が出現することもよくあります。

したがって認知症のBPSDではなく単に「怒ってらっしゃるご高齢の方」という事例をよく経験します。

事実に対して怒っていることに効果のある薬剤というものは存在しません。まずは十分な観察が必要です。当院の建物は古いですが、当院の看護スタッフや心理士、作業療法士はこのような観察に精通しております。

介護上の問題がある場合、まずは入院してきちんと観察することから始めてみてはどうでしょうか? 昨年、認知症の患者さんの入院は80件ほどでしたが、抗精神病薬を使用したのはたったの1症例だけでした。睡眠導入剤の使用は0でした。それでも3ヶ月以内の自宅退院率は50%を軽く超えております。

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